雑誌編集社のカメラマンである《草野 カツオ》の同僚である《広瀬》が会社のお金800万円を持ち逃げした!?から始まる奇妙な温泉旅行漫画【草野と希】。この漫画は全2巻でありながらしっかりとまとめられ、西日本の温泉の魅力を紹介しながら広瀬の妹《希(のぞみ)》と共に姉の捜索をする漫画です。
作者である《岩国 ひろひと》さんはご自身が温泉好きというのもあり、かなり温泉の描写が細かく記され、またそれらの特徴はもちろん、その地域の名物や名所なども詳しく知ることができる名作だと個人的に思いました!
今回は西日本の温泉の魅力をこれでもか!と詰め込んだこの漫画を紹介します!
漫画【草野と希】の概要
逃亡者《広瀬》を見つけ出し真相をあばけ!
『さて、ぼちぼち逃げるか』
旅行雑誌の女性編集者《広瀬》が突如複数の取引先から記事の編集のための頭金800万円を持って失踪した!詳しくその話を聞くために、一緒に組んで記事を作ろうとしていたカメラマンの《草野》は上司の《鮫崎》に広瀬を追うよう言われ、しぶしぶ彼女の住んでいるマンションへ向かいます。
インターフォンを押しても反応がない部屋のドアノブを引いてみると・・・『カギが開いている・・・』
手に上着を巻き付け、暴漢の武器対策をして靴のまま部屋に侵入すると荒らされた形跡が無いことから、カギは誰かに開けられたと推測した瞬間!後方から女子高校生に特殊警棒で殴られそうになる!
話を聞くとこの女子高校生は《広瀬》の妹であり、彼女のアイデアで広瀬(姉)の行きそうなところをSNSで検索してみると本人が写った写真を偶然見つけてしまう!
即一人で捜索に出ようとする広瀬の妹をなだめ、一緒に探すことを提案する草野。
『え~っと、そういえば君の名前は?』『広瀬 希です』
【草野と希】の見どころ!
真人間(まにんげん)を目指す元ヤクザ《草野》の成長
過去、狂暴なヤクザとして名を挙げていた《草野 カツオ》。
自他ともに認める《人の心が無い》草野が希との捜索の旅で、自身では気が付かないような小さな変化をしていきます。《真人間》のなり方がわからず苦悩する草野を希がどのように変化させていくのか・・・僕はこの全2巻という短い漫画で少しずつ変わっていく草野の姿に少し感動を覚えました!
最初は嫌悪感を感じた《草野》を少しずつ信じ始める《希》
過去の経験から相手の雰囲気でなんとなく一般人かヤクザかを見分けることができる希。その勘はこの漫画内で100%の的中率をほこります(笑)。
元とはいえ、自分の家族をバラバラにした原因であるヤクザの関係者だった草野を信じることが出来ず、流れで温泉を紹介する雑誌のモデルを担当することになった希ですが、草野を信じることが出来ず被写体なのにも関わらず心霊写真のようなカメラを睨みつけるような表情しか作れませんでした。
しかしその後、”あること”をきっかけにして徐々に草野を信じ始めます。その変化がなんというか凄く良いんです!この辺りもこの漫画の見どころだと思います!
目的よりもむしろ温泉街紹介がメインと思えるほど力を入れている!
この漫画の本筋は《広瀬(姉)の捜索と横領したお金の謎を追う》という展開なのですが、漫画内に出てくる温泉紹介にかなり力を入れているところも見どころだと思います!
全2巻の内、僕自身の感覚ではあるのですが3分の1から4分の1くらいは温泉紹介にページを割いている・・・ような気がします(笑)。ちょっと大げさ過ぎましたが、温泉の紹介がかなり細かく『あ、この作者さんは確実に実体験しているな』と思わせる描写で伝えてくれます。
このページの頭でも紹介しましたが、実際巻末で作者である《岩国 ひろひと》さんご自身が様々な温泉を巡り、それらの特徴を漫画に落としている旨を書いているのでかなり細かく描かれているのも納得です!正直、僕自身はこの漫画を読んで久々に温泉に浸かりたいと心底思いました(笑)
すべての謎をしっかり回収して短時間でスッキリ読み終えられる傑作漫画!
この漫画は打ち切り気味の内容ではなく、ちゃんと終わらせるときに終わらせられた印象を感じます。なので細かいことは置いておいて、大枠でいえばかなり綺麗に終わりを迎えた漫画だと思います!
《真人間》を目指す草野の成長を是非見てもらいたいです!あと旅行好きな人にも是非おすすめ!
登場人物
雑誌《旅行人》関係者
草野カツオと広瀬さん、鮫崎が作っている雑誌です。この漫画では今回、草野と広瀬さん一緒に組んで一つの企画を進める予定でした。
草野 カツオ
この漫画の主人公です。
雑誌編集者のおばさん達からの評価は「図体ばかりでっかくてシャキっとせず、うだつが上がらないロクでもない人生送ってきただろう」というとても低い評価で見られている35歳です。
その正体は《伝説の狂人》と呼ばれた元ヤクザです・・・!
《狂人》とまで言われるには理由があり、自分の身内、つまり同じ組員を襲撃し全滅させてしまったという伝説を持っているからです。
仲間にまで嫌われ、行くところがなくなったところに後述する鮫崎さんの会社で拾ってもらい今に至るという過去があります。ただ皮肉なことにこの漫画の主軸である《草野(姉)》を捜索する間はヤクザであったころの経験が至る所に活かされ、次々と問題を解決していき少しずつ広瀬(姉)に近づいていきます・・・
ガタイはかなり大きく、一見すると格闘家にも見える体格をもちますが一般の人には腰が低く丁寧に対応しますがヤクザやチンピラなどと対峙した際はかなりの威圧感を放ちます。どちらかと言えば威圧的な態度の方が本性なのかもしれませんが、本人はかなり嫌っているようです。
組員から嫌われていたからこそ刺青を入れる機会を失い、皮肉なことですが結果的に刺青やタトゥーが入っている人の入浴が断られがちな温泉に入ることができ、記事作成に活かされています。
広瀬 希
今作もう一人の主人公。
今回捜索する広瀬(姉)の実の妹で今現在養護施設に保護されている現役の女子高校生です。
容姿は女子高校生にしては幼く、体も小さいですが常に特殊警棒を携帯し、敵と判断した人間には容赦なく殴りかかることができるちょっと危険な女の子でもあります(笑)
幼い頃は家族が温泉旅館を経営していましたが金銭的に苦しくなり、サラ金に手を出した末ヤクザに追われ父親が家族を置いて逃げだして現在の状況に陥ったことからヤクザのことは心底憎んでおり、今では一目見ただけでそっち方面の人間を見分けることができるようになっています。
あらすじでも説明したようにひょんなことから草野と行動を共にし姉を探す旅をしますが、前述したとおり草野もヤクザと判断しいきなり殴りかかっています。のちに元ヤクザだと知ってもしばらくは遺恨が残りなかなか自然に接することができませんでした。
姉とは外見は似ていませんが喧嘩っ早いところはそっくりです(笑)
広瀬(姉)
希の実の姉で漫画内では最序盤から逃亡するトラブルメイカーです。
かなり性格がチャランポランなのか会社や草野はモチロン、実の妹からのメッセージでさえ既読せず放置する始末・・・(笑)問題の中心点なのにもかかわらず温泉旅行を楽しんでいます。
表には出しませんが実は草野は広瀬(姉)に惚れちゃってます。
鮫崎
草野と広瀬(姉)が働いている雑誌出版社の直属の上司にあたります。
外見は草野に負けず劣らずの強面で肉体も同様筋骨隆々です。以前は総合格闘家だったようで《伝説の狂人》こと草野カツオに唯一ひざをつかせた人物でもあります。つまり作中最強はこの人です(笑)
急に女子高校生を雑誌のモデルに脅して半ば無理やりやらせる強引なところもある反面、悩み続ける草野を《真人間》に導こうとする人格者でもあります。
養護施設
ワカメさん
広瀬姉妹を育てている養護施設の管理者です。”養護施設”とは希が言っていることで、実際は《ファミリーホーム》と呼ばれ、より一般家庭に近い環境で施設に送られることになった子供たちを育てる福祉事業所です。
ワカメさんはそのホームを一人で切り盛りする元女子プロレスラーで、草野や鮫崎同様かなり良いガタイを持つ女性です。
未亡人であり、亡くなった旦那と雰囲気が似ている草野を警戒します。
広瀬(姉)を追うヤクザ
草野との因縁を持ち、広瀬(姉)を何故か追うヤクザです。
鰤田(ぶりた)
過去、草野と深い因縁を持つヤクザです。舎弟を数人抱え、個人で銃を持つ立場でもあります。草野からは《ホラ吹き鰤田》と呼ばれ見下されていることに本人は嫌気がさしているようです。
作中でも低身長で小心者、それでいて短気でキレやすいというキャラクターで表現されており、俗にいう【小物】として終始描かれています。
なにかしらの秘密を抱えているようですが・・・・
鱸(すずき)
物語序盤に草野にケンカを吹っ掛ける鰤田の子分です。一応杯(さかずき)は交わしており、兄弟分という立場になっていると思われますが、扱いは体のいい小間使いという感じです。
腕っぷしには自信があるようで、明らかに自分よりもガタイの良い草野に対してボクシングの構えを取って殴るもまるで通用しない様に絶望感を抱いていました。
この鱸にも子分が二人いますが草野に一瞬で倒されています。
ハタ
無敗のケンカ屋で荒事を専門的に扱う鰤田の子分。子分と言ってもヤクザからは破門された身で、何か問題を起こしても関連ヤクザには繋がらないただの鉄砲玉です。
鰤田の指示で格闘技を習わされておりかなりの手練れで、草野に対しても一方的に攻撃します。
紹介された温泉
作者も巻末で書いているように《草野と希》は温泉旅行を題材にし、温泉宿からも応援されポスターを張り出されたりもしていたようです。ここからは紹介された温泉街と食べ物の一部を漫画内の表現を用いて書いていきます。
城崎温泉
漫画《草野と希》のスタート地点でもある【BIGLOBE旅行】の規格である2019年に発表された【第十一回温泉大賞】で【西の大関】として表彰された【城崎温泉】。ここから二人の旅がはじまります。なお今現在、【第十四回温泉大賞】においても同様に【西の大関】を勝ち取っています。
【城崎温泉】は【七つの外湯】という共同浴場が特徴的な温泉街で、漫画内でも【一の湯】の【洞窟温泉】と【さとの湯】の【和風・洋風露天風呂】と【薬草蒸し風呂】が紹介されています。
温泉の効能としてはきりきずや皮膚乾燥症、筋肉や関節の痛みに効果があり、飲泉すれば胃炎や便秘に効果があると言われています。
食べものでいえばカニ料理が有名で、漫画内でもカニ料理に関して豊富な紹介があります。また但馬牛を中心とした露天食べ歩きも紹介され、見ているこっちがよだれを垂らしそうになります・・・(ジュルリ)
温泉以外でも観光地が書かれており、多宝堂や城崎ロープウェイなどを紹介しています。
湯村温泉
次に向かったのは兵庫県北にある【湯村温泉】です。上記の【城崎温泉】と鳥取県のちょうど中間地点辺りにある小さめの温泉街です。小さいとは言っても【第十四回温泉大賞】にもちゃんと載っている由緒ある温泉です。
【湯村温泉】は日本でも屈指の高温温泉であり、その温度はなんと98度・・・それが毎分470リットルの量湧き出しており、温泉街の規模では供給過多ということで周辺の一般家庭にも配湯されています。
漫画内では様々な露天風呂や広い温泉プールが楽しめる【リフレッシュパークゆむら】が紹介されています。
食べ物は城崎温泉と同じく但馬牛を使った但馬牛丼が紹介されています。
空庭温泉
漫画内で希の住んでいる施設の家族と行く大阪府、大阪ベイタワー内にある温泉型テーマパークです。
テーマパークの名前の通り、温泉以外にも様々な施設が用意されており、希たちが楽しんでいる姿が描かれます。
大阪南港から別府行のフェリー
温泉ではありませんが、希の施設のある大阪から別府に向かう際に利用する【商船三井さんふらわあ】の瀬戸内海を進むフェリー内でも入浴施設が紹介されています。
大浴場から瀬戸内海を一望でき、希も『不思議、海の上でお風呂に入っている』と言うように普段体験できない輸入欲が楽しめます。
食事はバイキング方式の食べ放題で、ビュッフェからスイーツまで様々な食べ物が用意されていることが描写されています。
別府温泉
【BIGLOBE旅行】の【温泉大賞】で2015年度の第八回から2023年度の第十四回まで6回連続で西の横綱を受賞している言わずと知れた日本屈指の有名温泉地です(ちなみに第七回は有馬温泉が横綱でした)。
有名温泉地というだけあって温泉の数が多いですが、漫画内では一部のみ紹介されています。
テレビの旅行番組でもおなじみの【別府海浜砂湯】で入れる砂湯と【別府八湯】の一つ【鉄輪(かんなわ)】にある【蒸し湯】が紹介され、かなり高温であることが描かれています。
食べ物では別府冷麺と七つの地獄を巡るツアー【地獄めぐり】にある極楽饅頭を紹介されています・・・美味しいそう!
明礬温泉
【別府八湯】の一つであり、八湯のなかでも最も標高の高いところにあるのが明礬温泉です。
ここでは貸し切りの【家族湯】のみ紹介されているほかに草野が一人で湯船に入るシーンがありますが、どこかは書かれていないのでわかりませんでした。
食べ物は大分名物の【やせうま】や【青魚の醤油漬け】が紹介されてます。
まとめ『・・・困っている人を助ける・・・真人間のすることだ!』
ここまで漫画【草野と希】を紹介してきました。
会社の金を盗み、盗んだ広瀬(姉)へ理由を聞きお金を取り戻すために元ヤクザの草野と、広瀬(姉)の妹である希がタッグを組んで温泉地を巡り、紹介しながら進められる物語が2時間ドラマを見ているようですごく楽しかったです。
全2巻と短いですが温泉地などの情報量が多く濃い内容で、読みとめる機会を失い結局最後まで一気に読んでしまいました。
ヤクザから足を洗い、《真人間》になるために努力する草野がどのような変化をするのか?が個人的には一番興味のある部分でしたが、とても良いまとめ方だったなと思います。
この記事を読んで少しでも興味を持たれた方や、時間つぶしで短めのマンガを読みたい方は是非読んでみてください!